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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)331号 判決

控訴人 原告 関西電力株式会社

訴訟代理人 田中章二

被控訴人 被告 三田保一

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人は別紙第一目録記載の建物の建築工事を続行してはならない。

被控訴人は別紙第二目録記載の土地上に建物を建築してはならない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

控訴会社代理人は主文同旨の判決を求めた。

被控訴人は適式な呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。

第二、当事者双方の事実上及び法律上の陳述

一、控訴会社代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  控訴会社は、電気を供給することを主な目的とする会社で、三国と豊崎に夫々変電所を所有し昭和一二年五月両変電所間に二〇、〇〇〇ボルト送電線を建設したが、同線は、別紙第二目録記載の土地の上空にも架設されていた。

(二)  ところが、電気の需要が増大したため、控訴会社は昭和三〇年大阪通商産業局の認可をえて右二〇、〇〇〇ボルトの送電線を七〇、〇〇〇ボルトに昇圧するため特別高圧架空電線に架け替える工事に着手した。

(三)  控訴会社が右使用電圧七〇、〇〇〇ボルトの特別高圧架空電線を保持するためには、電気工作物規程によつて種々の規制をうけるわけである。

(1)  同線の地表上の高さは、常に六メートル以上に保持しなければならない。(同規程九〇条)

(2)  同線と建造物とが接近する場合その離隔距離は常に三メートルに三五、〇〇〇ボルトをこえる一〇、〇〇〇ボルトまたはその端数ごとに一五センチメートルを加えた値以上でなければならない。(同九九条一項六号)

(3)  同線と建築物とが接近する場合、同線が建造物の上方又は側方において水平距離で三メートル未満に施設されるときは、所轄通商産業局長の認可をうけなければならず、同線が建造物の上に施設される場合も同局長の認可をうけなければならない。(同一〇〇条一〇一条の各四項)

(なお離隔距離、水平距離、上方、側方及び上という用語については添付第二図参照)

(4)  控訴会社が右に違反して電気工作物を設置し又はその工事をしたときは、それが他に障碍を及ぼし又は危険と認められると通商産業大臣の命令によりその電気工作物を撤去したり若くは使用の停止又は工事の中止をしなければならない(電気事業法施行規則九七条)。

なお本件の場合後述のとおり被控訴人が控訴会社が主張するような建物を建築するのであるから、控訴会社が右規程によつて大阪通商産業局長に認可を申請する理由はないし仮に申請しても、本件の場合は認可が与えられないばかりか、却つて、右のような停止命令をうけることになりその結果、送電停止などを余儀なくされると控訴会社は著しく損害を被り、又公衆の日常生活或は経済生活に著しい損害を与える結果となる。

(四)  そこで、控訴会社は、同工事のため電線下の土地、家屋の所有者や占有者らの協力により電線下の土地一、四五〇坪を平均坪当り金三、二五〇円で買収しその移転補償費を支払つて更地にした。

このようにして買収した土地に挾まれて訴外岸本安治所有の本件土地があり、同人は、これを訴外植松梶朗、同喜多喜一に賃貸したため同人らは建物を建ててこれを訴外川人繁、同太田政広に賃貸していたので、控訴会社は、右訴外人らの損失を補償して更地とし、右岸本安治に対しては、控訴会社が右の工事を施行する旨を告げ、その電線下は建造物の構築に制限をうける旨説明して、本件土地の買収若しくは上空使用権設定の交渉をすすめた。しかし同人は本件土地が更地になつたことをよいことにして不当に高額な土地代金を要求するため、その交渉はまとまらなかつたため、控訴会社は取り敢えず同人の承諾をえて本件土地の上空にも右工事を完成し、このようにして昭和三〇年一〇月四日全工事を完了して送電を開始した。

(五)  したがつて控訴会社は、同日頃からは、本件土地の上空を、七〇、〇〇〇ボルトの送電線を架設送電することによつて平穏かつ公然と占有を継続している。

即ち建築技術の進歩、文明文化の発達は土地を立体的に利用する途を開き、土地の所有権は立体的に地表面、地表上、地下に分けられるようになつた。これにつれ土地の占有も所有権の範囲と同じく地表面、地表上、地下について生ずるわけで、控訴会社も本件土地の地表上上空だけの占有を取得したといえる。

(六)  仮に右上空の占有が認められないとしても、控訴会社は本件土地の上空の準占有者である。即ち準占有とは自己のためにする意思をもつてする財産権の行使であるところ、控訴会社は、本件土地の両隣地を所有しこれに高圧電線の支持物である鉄塔を建設し本件土地の上空を通過してこの間に電線を架設しているが、この架設には右岸本安治の承諾があつた。右承諾の法的性質は地役権の設定に外ならないから、控訴会社は右地役権の行使として、控訴会社のためにする意思で本件土地の地表上に送電線を架設してその上空を準占有している。

(七)  ところが被控訴人は、昭和三三年三月頃右岸本安治から本件土地を賃借したと称してそこにバラツクを建設したので控訴会社は直ちに被控訴人に対し電線下に建築物を構築できない旨を説明したところ、被控訴人は一旦はそれを収去したが同年五月一五日頃から再び本件土地上に別紙第一目録記載の建物の建築をはじめた。

(八)  しかし被控訴人が右のような建築物を建てることは控訴会社の本件土地の上空の占有又は準占有の妨害である。

そこで、控訴会社は、被控訴人に対し、右占有権にもとづき、予備的に右準占有権にもとづき被控訴人が本件土地上に同第一目録記載の建物の建築続行の禁止を求めるとともに、被控訴人は本件土地の賃借人として本件土地上に右建物と構造種類などを異にする別個の新しい設計で建物を建築し再び控訴会社の右占有若くは準占有を妨害する虞れがあるので、本件土地上に被控訴人が建物を建てないことを求める。

二、被控訴人は答弁として次のとおり述べた。

(一)  控訴会社主張の請求の原因中、控訴会社が電気を供給することを主な目的としている会社であること、控訴会社が本件土地の上空に主張のような電線を架設して保持し本件土地の上空を使用していること、岸本安治が本件土地を所有しており、被控訴人がこれを賃借し、控訴会社主張の建物を建築中であることは認める。

(二)  その余の事実は全部争う。

(三)  被控訴人が係争建物を完成しても、それは何等控訴会社がいうように電気工作物規程違反にならないから控訴会社の主張は事実上よりどころのない主張でしかない。

(四)  控訴会社と右岸本安治との間に本件土地について地役権が設定されたとしても、地役権の登記手続がとられていないのであるから本件土地の適法な賃借人に対抗できない。

(五)  控訴会社は、公益事業を営む株式会社であるとの主張のもとに財産権不可侵の日本国憲法二九条一項三項を無視し正当の補償なく土地賃借権を侵害してもよいと考えているようであるが被控訴人は承服し難い。

(六)  控訴会社は本訴で水平接近限界線外にある被控訴人建設中の建物の建築続行禁止までも求めているが、この請求が失当であることは多言を必要としない。

三、控訴会社代理人は被控訴人の答弁に対し次のとおり反駁した。

(一)  控訴会社の本訴請求は占有権若くは準占有権にもとづくもので、被控訴人が主張するような地役権の理由にもとづいて裁判をすることができないから、被控訴人の地役権に関する主張は理由がない。

(二)  控訴会社の本訴請求と、被控訴人が主張する補償の問題とは別個の問題であつて主張自体失当である。控訴会社は無償で本件土地の上空を使用占有するものでないことは前述のとおり控訴会社が多大の犠牲を払つて本件土地を更地にしたことによつて明らかであるし、本件土地の所有権者である岸本安治に対し適正な補償をする用意がある。

(三)  控訴会社が被控訴人主張のような建物建築続行禁止を求めるのは、被控訴人が建てようとしている建物の部分的続行禁止ということは無意味であるから、このような場合はその全部の禁止が求められるのである。

第三、証拠

控訴会社代理人が検乙第一ないし同第四号証は各撮影年月日に被控訴人の建築中の建物を撮影した写真であることはいずれも認めると述べたほかは原判決中事実のうち立証の項と同一であるからここに引用する。

理由

一、控訴会社は電気を供給することを主な目的とする会社で昭和三〇年一〇月頃から別紙第二目録記載の土地の上空に七〇、〇〇〇ボルトの送電線を架設して保持し、本件土地の上空を使用していることは当事者間に争いがない。

二、控訴会社は、右電線を架設して保持し、本件土地の上空を使用していることを目して、控訴会社に右上空の占有権があると主張しているので判断する。

(一)  控訴会社が七〇、〇〇〇ボルトの電圧の電流電線を施設することは人命や財産に対し著しく危険なばかりか、他方その切断による被害と供給支障の影響には、はかり知れないものがあるので、電気に関する臨時措置に関する法律(昭和二七年法律第三四一号)の規定にもとづき旧電気事業法(昭和六年法律第六一号)の委任をうけて昭和二九年四月一日に制定された電気工作物規程(通商産業省令第一三号、昭和三〇年一一月昭和三二年三月一部改正以下規程という)は、その電線の太さやその支持物の強度或は電線と建造物などとの離隔距離などを規制して、電気工作物自体の安全と電気供給の安定をはかるとともに人命や財産に対する危険の防止をはかつている。

今本件に必要な範囲で規程を考察する。

(1)  規程は七〇、〇〇〇ボルトをこえるものを特別高圧として取り扱うことにしている(規程三条)。

(2)  七〇、〇〇〇ボルトの特別高圧架空電線(以下単に電線ともいう)の地表上の高さは常に六メートル以上に保持されなければならない(規程九〇条一項二号)。そうして、地表上の高さとは、添付第二図の垂直離隔距離をいうと解するのが相当である。

(3)  電線と建造物とが接近する場合、電線が建造物の上方もしくは側方において水平距離で電線の支持物の地表上の高さに相当する距離以内に施設されるときは、電線と建造物との離隔距離は、三メートル六〇センチメートル以上に保持しなければならない(規程九九条一項六号)。そうしてここにいう離隔距離とは、電線と建造物との接近の限界を意味すると解するのが相当である(同図参照)。

(4)  電線と建造物とが更に接近し電線が建造物の上方または側方において水平距離で三メートル未満に施設されるとき(規程一〇〇条四項)又は電線が建造物の上に施設される場合(規程一〇一条四項)には所轄通商産業局長の認可を必要としている。

右にいうところの水平距離とは電線から地表に降した垂線と建造物との水平接近限界を意味し、規程が上方、側方、上、と厳密に使い分けているところから、これらは夫々その意味を異にし、同図IIに図示して説明するような意味に用いられていると解するのが相当である。

(5)  ところで規程には、所轄通商産業局長の右認可申請に対する認可の基準については何等の規定を置いておらないが電線と建造物とがその上方もしくは側方で水平距離三メートル未満に接近したり、電線が建造物の上に施設されるいわゆる制限外施設を認可することは、それ自体極めて危険な状態を作り出すことになるから同局長としては、そのような認可を与えてもなお安全性が確保できるいわば例外的特別な事情があるときはじめて認可することが許されると解すべきで、そのことは、規程の趣旨から当然である。

(6)  このように観察してくると、控訴会社は、本件特別高圧架空電線を本件土地の上空に架設して保持するためには、水平離隔距離で、電線の最外線の左右三メートル宛、垂直離隔距離で、六メートル以上、離隔距離で、建造物より三メートル六〇センチメートル以上の空間が最少限度必要となり、その空間があつて、はじめて控訴会社は電線に七〇、〇〇〇ボルトの特別高圧電流を流すことができるわけで、この空間がないということは即ち規程に違反して電気工作物を所持したり工事を施行していることになり、それが他に障碍を及ぼしたり又は危険であることは明白であつて、通商産業大臣が電気事業法施行規則九七条によつて、右電気工作物の撤去又は使用の停止又は工事の中止を命ずることができる場合に該当するといわなければならない。

(二)  原審証人中谷章の証言によつて成立が認められる乙第一号証によると、控訴会社の架設した本件土地上の特別高圧架空電線の垂直離隔距離は、一二、九メートル、被控訴人が建築しようとした別紙第一目録記載の建物との離隔距離は一八、一七メートルであることが認められ右認定に反する証拠はないから、右各距離はいずれも規程が要求する距離以上あることになるので、結局本件では、さきに述べた空間を添付第一図で説明すると、地表上一二、九メートルの距離にある二本の最外線からいずれも三メートル外側に引かれた保安線(水平接近限界線)を結び、これと各保安線から地上に下した垂線によつて出来る矩形の空間が規程の要請する最少限度のそれといえる。

(三)  占有権の客体は物であることを必要とし、物とは法律上の排他的支配可能な物理的実体を指称すると解するのが相当であるところ、空間は独立してそれ自体占有権の客体と認めることは困難であるが、物理的実体を媒体としてそれとともに、社会的秩序に照し排他的支配が可能であるとされる限り、占有権の客体たるに妨げなく、この場合空間に対する占有権を容認すべきである。

特別高圧架空電線を架設占有し、これに七〇、〇〇〇ボルトの高圧電流を送電使用している場合、右に述べた規程の認める空間は電気事業者が現実に支配しているという客観的な関係があるから、右の者はその空間を占有し、占有権を行使していると認めるのが相当である。一般の空間の占有は塀、柵、屋根その他外枠的構造の内側として知覚されるがこれと趣を異にし、電線を中核として規程の定める距離内の空間がその外延として知覚されるのである。これは特別高圧電流の特性上定められた法的秩序であり、これに鑑みれば、右空間はその者の支配下にあると判定すべき道理であるからである。

(四)  ところで、原審証人山下貞市、同市川楢一、同植松梶朗の各証言と原審での検証の結果を総合すると、控訴会社は昭和三〇年初頃から三国、豊崎の各変電所間の二〇、〇〇〇ボルトの架空電線路(三国豊崎線)を、七〇、〇〇〇ボルトに昇圧するため既存の支持物と電線をつけ替える工事の計画を樹てたが電線路下の土地に工作物があると規程に牴触することになるので、架空電線路下の宅地を規程に従つて一二メートルの幅で買収して宅地上にあつた約六〇戸の家屋には補償をして更地にし、農地も同幅にわたたつて地役権を設定したこと、本件土地もその上を特別高圧架空電線が北西から東南に横切ることになるので控訴会社の係員訴外山下貞市は、本件土地の賃借人訴外喜多喜一、同植松梶朗と、右両名から本件土地に建てられた建物を賃借していた訴外太田政広同川人繁と交渉をすすめ本件土地の所有者岸本安治との買収取極めは後廻しにして、右訴外人らに金八四〇、〇〇〇円を支払つて右建物を取り壊し、本件土地を更地にしたこと、このようにして控訴会社は三国豊崎線下の宅地を一二メートルの幅で更地にし農地に同幅で地役権を設定したうえ同年八月五日頃右工事に着手し、同工事は同年一〇月一五日頃完了したので、同月二二日頃から七〇、〇〇〇ボルトの送電を開始したこと、及び控訴会社は現場巡視者をおいて監視に当つていること、が認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  そうすると控訴会社は三国豊崎線を七〇、〇〇〇ボルトに昇圧する工事をするため三国、豊崎間の架空電線下の土地を幅一二メートルで一帯に更地にしたり、地役権を設定し、その上空に七〇、〇〇〇ボルトの特別高圧架空電線を架設して少なくとも同年一〇月頃から規程の要請する最少限度の範囲の空間を獲得して現場巡視者に監視させているわけで、右は控訴会社が継続して右電線に七〇、〇〇〇ボルトの特別高圧電流を送るために右空間を排他的に支配可能な状態に収めたとしてよいから本件土地の上空も同範囲の空間で排他的に支配していることになりそれはとりもなおさず控訴人が右空間を占有しているものといえる。

三、(一) 被控訴人は本件土地をその所有者岸本安治から賃借し、その土地上に昭和三三年四月一五日頃から同第一目録記載の建物を建築しようとしたことは当事者間に争いがないから、被控訴人の右所為は控訴会社の本件土地の上空の右占有の妨害になること勿論であり、控訴会社は被控訴人に対しその妨害の停止を求めることができるといわなければならない。

(二) これに対し、控訴会社は、被控訴人が建てようとしている建物全部の建築続行禁止を求めているが、被控訴人は、水平接近限界線外にある建物部分まで建築続行禁止を求めることは失当であると抗争するので考究する。

(1)  右争いのない事実に、いずれも右建物を同年四月一九日に撮影した写真であることは争いがない検乙第一ないし同第四号証、原審証人山本貞市の証言、原審での検証の結果と弁論の全趣旨を総合すると、控訴会社は右工事を完成して後、本件土地の所有者岸本安治と本件土地の買収について話合い中、同人は、昭和三三年三月頃本件土地を被控訴人に賃貸し被控訴人をして本件土地に右建物を建てさせようとした。このことをいち早く発見した控訴会社の現場巡視者の報告をうけた控訴会社の係員右山下貞市は被控訴人と岸本安治に対し電線下には建物が建てられないことを説明してその中止方を求めた。同人はこれをよいことにして本件土地を高額で控訴会社が買収するように控訴会社と掛け合つたが値段に相当の開きがあつたので遂にまとまらなかつた。そうすると、被控訴人は控訴会社からの説明で本件土地上には建物が建てられないことを熟知しながら右岸本安治にそそのかされ、バラツク建倉庫一棟を建てるべく本件土地のうち添付第一図中、(A)(B)(C)(D)(A)の各点を結んだ箇所にコンクリートで土台を構築し、棟上も終つて板塀を打ちつけているとき、控訴会社は同年四月一九日仮処分命令の執行をしたので、被控訴人は右建築工事を中止せざるをえなくなつた。右建物はその北東隅が電線の下で水平接近限界線内になるがその状態は同図のとおりである。その後台風のため棟が倒壊したが、土台はそのまま残り木組みもその上に倒れたまま置かれていることが認められた右認定に反する証拠はない。

(3)  右認定の事実からすると、被控訴人は電線の下には建物を建てることができないことを知りながら、敢えて右土台上にバラツク建倉庫一棟を建てて控訴会社の本件土地上の右空間の占有を妨害しようとしているのであるから、被控訴人においてそのような妨害をしないよう設計を変更して右倉庫を建てる意思があることが窺知できない本件では一棟の建物のうち同図中、(A)(E)(F)(D)(A)の部分だけの建築続行を禁止することは無意味に等しいから控訴会社としては、右占有権にもとづいて被控訴人が現在ある土台の上にその設計にしたがつて右一棟の建物全部を建てることを禁止するよう求められるとしなければならない。

四、被控訴人が右建物を建てた事情が右認定のとおりであるかぎり、被控訴人が控訴会社の本件土地上の右空間の占有を妨害する虞れがあるといえるから控訴会社としては、被控訴人に対し妨害の予防として本件土地に建物を建築しないことを求められる筋合である。

五、被控訴人は、控訴会社は正当な補償をしないで被控訴人の土地賃借権を侵害するものであると主張しているが控訴会社の本訴は占有保持並びに占有保全の訴であつて被控訴人の賃借権とは無関係であるからこの主張は採用に由ない。

六、むすび

以上の次第で控訴会社が本件土地の上空の右占有権にもとづき被控訴人に対し右建物の建築続行の禁止と本件土地上の建物を建てることの禁止とを求める本訴請求は正当であり、右と異なる原判決は失当として取消しを免れない。

そこで民訴三八六条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平峯隆 裁判官 大江健次郎 裁判官 古崎慶長)

第一目録

大阪市東淀川区西中島町二丁目八七番地上

一、木造瓦葺平家建バラツク一棟

建坪 一五坪

について基礎工事を完了し、建築に着手した未完成建物

第二目録

同所 八七番地

一、宅地三二九坪七合八勺のうち添付第一図の

(イ)(ロ)(ハ) (ニ)(ホ)(イ)の各点を結んだ線内二九坪七合八勺

第一図、第二図〈省略〉

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